東京高等裁判所 昭和38年(行ナ)193号 判決
一、原告が一、二において主張する、原告の有する本件商標の構成、指定商品、出願日、登録日並びに特許庁における本件登録無効審判手続の経過及び審決理由に関する事実は被告の認めるところであり、また被告が一において主張する被告の有する引用商標の構成、指定商品、出願日、登録日に関する事実も原告の争わないところである。
二、そこで以下審決の当否について検討する。
(一) 本件商標と引用商標との称呼上の類否について。
前記の当事者間に争いのない事実と成立に争いなき甲第二、第四号証とによれば、本件商標は別紙第一目録1のとおり、「リユーマゾロン」の片仮名文字を縦書きしてなるものであり、また引用商標は、同目録Ⅱのとおり、「RHEUMASON」の欧文字と「ロイマゾン」の片仮名文字とを、上下二段に左から右に並列横書きしてなり、そして右の両文字は、欧文字の方が綴り字が多く、日本文字はそれが少い関係からか、欧文字の方が横に長く書かれ、日本文字はその下に両横を多少あけて短かく書かれているものではあるが、文字そのものはその大きさを同じうするものであることが認められる(右によれば両商標が外観を異にするものであることは明らかである。)。
そこで両商標の称呼の点について考えてみるのに、本件商標は「リユーマゾロン」の片仮名文字からなるものであるから、これからは右のとおりの称呼を生ずるものであることはいうをまつまい。そこで問題は、前記のような構成からなる引用商標から果して如何なる称呼を生ずるかである。引用商標は前記のように「RHEUMASON」の欧文字の下にこれと同じ大きさの仮名文字をもつて「ロイマゾン」と記載せられたものであつて、右の欧文字は綴り字も長く、わが国の人たちにとつては必ずしも親しみ深い語でもなく、また読み易い語でもない。これに反し「ロイマゾン」なる片仮名文字がわが国人に容易に理解判読し得るものであることはいうをまたないところであり、しかもこの両文字が大小の差もなく同じ大きさで書き現されていること前記のとおりである。そうとすれば、なるほどわが国における外国語の普及状況から見て欧文字は一応これを英語風に発音するのが一般であるとしても、前記の諸事情から見て右引用商標の称呼は右の仮名文字から「ロイマゾン」の称呼を生ずるものと解するのが相当であろう。従つて、本件商標と引用商標とはその称呼の上においては、多少まぎらわしい点がないではないが、これを別異のものと認むべきであり、右と見解を異にする本件審決の判断及び被告の主張には賛同することはできない。
(二) 両商標の観念上の類否について。
(1) すでに古くからわが国に「リユーマチ(ス)」、「ロイマチス」あるいはまた「リヨウマチ」(これらの語が、英語の「rheumatism」、ドイツ語の「Rheumatismus」に由来することは一見明瞭である。)と称する関節、筋肉等に痛みを生ずる病気があり、巷間日夜その疼痛に悩み、日常生活に難渋する幾多の罹患者の存することは、広く一般に知られた事実であつて、難病であるこの病名の印象がそれだけ強く、あまねく世人に浸透していることは疑をいれないところである。
ところで引用商標は、右の外国語文字のうち象徴的、特徴的と目される綴字部分である「RHEUMA」の文字に、そのドイツ語式発音にして同時に前記日本語「ロイマチス」の象徴的、特徴的部分でもある「ロイマ」の片仮名文字を併記し、右欧文字及び片仮名文字にそれぞれ続けて「SON」及び「ゾン」の文字を結合してなる造語文字商標であり、また本件商標は前記日本語「リユーマチ(ス)」の象徴的、特徴的部分とみるべき「リユーマ」の文字に「ゾロン」の片仮名文字を連ねてなる造語文字商標であるところ(「RHEUMASON」、「ロイマゾン」また「リユーマゾロン」の語がいずれも造語であることは、当事者間に争いのないところである。)、右引用商標の末尾をなす「ゾン(SON)」、また本件商標の末尾をなす「ゾロン」の文字は、共に化学製品、薬品類等の名称において、単に語調、語形を調整、整備するため好んでその末尾に付して用いられる語の一種と目され、何ら格別の意味感覚を生じないものと認められる。そしてわが国語においては、前記のようにして本件各商標の主部と認められる「ロイマ」「リユーマ」を主部とする語は、前記の「ロイマチス」、「リユーマチ(ス)」の外には殆んどこれを見ないところであるから、これに前記のような「ロイマチス」、「リユーマチ(ス)」の病名がわが国世人に与えている強い印象とを合せ考えれば、引用商標及び本件商標は共にそのそれぞれの前記象徴的、特徴的な部分から世人にたやすく「ロイマチス」、「リユーマチ(ス)」疾患、同疾患関係のもの、特にその治療剤を推察、連想させるものであり、すなわち右両商標は共に右のような観念を生ずるものであつて、両者の観念は類似するものというべきである。
(2) 原告は造語からなる商標において、造語構成の理由とした観念、造語構成者の所期した造語の観念は、商標採択の理由たるに止まり、商標の類否判定の基準たるべき観念たるに値いしないという。商標を構成する造語の作成者の主観的に意図し、目的とした観念に関する限り、まさに原告の主張するとおりであるといえよう。しかし本件においては、両商標を構成する各造語の作成者の主観的意図はいかにもあれ、その造語からなる各商標が客観的に取引社会においてそれぞれに前記のような観念を生ずるものと認められ、そしてこの現実に生ずる観念の故に、両商標はその観念において類似するものとみられること前記のとおりであるから、原告の右主張は本件には当らない。
次に原告は、造語からなる商標は、商標の類否判定の基準たる意義観念を生じないという。
ところで一般に観念の同一または類似する商標が類似の商標であるとされるのは、当該の各商標が直感的に取引者、需要者に与える知覚内容、いわゆる意義観念が同一または相紛らわしい場合には、そのことによつて両者の間に混淆を生じ、これらの商標を付した商品につき、取引者需要者間に誤認混同のおそれがあるからに外ならない。
商標における観念、商標の類否判定の基準たるその意義観念の趣意が右の如くである以上、商標が観念を生ずるものとなすべきか否かは、当該商標の採択者の意図とは関係なく、客観的に見て、該商標から取引者需要者が或る種の観念を感得するものであるか否かによつて決すべきであつて、これは必ずしも造語であると否とによつてその結論を異にすべきものとは考えられない。もとより造語からなる商標には、右のような観念をも生じないものが多いであろうことは、一応想察に難くないところであるし、またそのいわゆる観念を生ずるものにあつても、造語からなる商標の生ずる観念は、既成語からなる商標の生ずるそれに比し、内容の明瞭さ、精密さにおいて劣るというのが一般であると一応はいえるであろう。しかし、すでに商標の類否判定の基準たるべきいわゆる(意義)観念は右の如きものであると解すべき以上、原告の主張する如く造語からなる商標は意義観念を生じないものと一概に断定し得ないこと明らかというべきであつて、それが観念を生ずるものとなすべきか否かは、前記のような観念の意義内容に照らし、個々に決しなければならないところである。既成語からなる商標の持つ、その既成語の既成の語義を基本として形成された観念のみが文字商標の類否判定の基準たるべき観念であるとするのは、いわゆる観念なる語そのものに執着し、その典型的ないし公式的意味内容に故なく拘泥するものであつて、造語からなる商標においても、そのあるものは現実に取引者、需要者にある知覚内容を生ぜしめ、しかもそれが商品取引に実際に作用している現実を無視するものというの外はないであろう。そしていずれも造語からなる本件における両商標が、前記のような意味において(意義)観念を生ずるものであることは、すでにみたとおりである。
(3) 原告はまた、商標の類否判定の基準としての観念は、当該商標の指定商品全部との関係において意味連絡のあるものであることを要するとするが如き趣旨に基いて主張するところがある。
しかしながら、本件商標と引用商標とが右記載のような理由によつて類似商標と認むべきものである以上、その類似商標として引用商標が既に存する限り、該引用商標の指定商品と類似する商品についてする本件商標の登録の許されないことは旧商標法第二条第一項第九号の規定に徴し明らかなところというべきである。そして、本件商標及び引用商標はともにその指定商品を化学品、薬剤及び医療補助品とするものであつて、右各指定商品はこれを原則的に見れば、大体においてその全部が類似商品であると見るのが相当であるから、たとえ、右両商標の観念類似がその指定商品中の一部のものに由来するにせよ、後願の類似商標である本件商標の登録は、先願既登録の類似商標である引用商標の指定商品の全部に亙つてその登録を許されないものと解するのが相当であつて、右原告の主張も到底これを採用することはできない。
(4) 次に成立に争いなき甲第九ないし第二一号証、第二三ないし第二六号証、第二八号証に前記の本件商標及び引用商標に関する当事者間に争いなき事実及び弁論の全趣旨を合わせ考えると、「ロイマ(RHEUMA)」、「ロイマ」等の文字、「リユーマ」、「RHEUMA(リウマ)」等の文字を、多くはその頭部に冠して構成された、造語と目される文字からなる別紙第二目録記載の如き構成の商標が、それぞれ原告主張の如き指定商品をもつて、本件における両商標の登録を含め、これら両商標の登録の前後にわたり多数登録されている事実が窺われる。そして原告は、これら商標の重複登録の事実は、本件における両商標の如く「ロイマ(RHEUMA)」、「リユーマ」等の如き文字を含む文字商標が、観念を、従つてまた前記認定の如き内容の観念を生ずるものでないことを、実際に物語るものであるという。
しかし、これら既登録商標例の中には、右のような文字を含むにしても、これと結合する文字のいかんによりその構成全体からみれば、観念の点で必ずしも本件における両商標と同視できないものもないではないことが認められ、また登録時(正確にいえば審査、審判の終結時)の事情において本件における両商標と同一に論じられないものもあるであろう。いずれにしても、当該の具体的事例についての特定の事情を考慮してなされたと認むべきこれら既登録例の存在の事実の故に、直ちに、本件両商標が観念を生じ、その観念が類似であるとする前記判断を不当とするのは当らず、むしろこれら既登録商標例にして本件の両商標におけると同様に判定せらるべきものありとすれば、その商標の登録の当否こそがまず問題とせらるべきであろう。
(三) 以上の如く本件商標は引用商標と(その外観はもとより)称呼を異にするも、その観念において類似するものとして類似の商標であるというべきところ、両商標がその指定商品を同じうし、そして引用商標が本件商標の出願に先だつて登録されたものであることは当事者間に争いなきこと前記の如くであるから、本件商標の登録は旧商標法第二条第一項第九号の規定に違反してなされたもので、同法第一六条第一項第一号の規定により無効とせらるべきものというべく、これと帰結を同じうした審決の判断は、結局において相当であつて、違法は存しない。
三、よつて審決の違法を主張してその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却する。
〔編註〕本件に関する目録は左のとおりである。
第一目録
本件商標
Ⅰ
<省略>
引用商標
Ⅱ
<省略>
第二目録
<省略>